ブランデー
ブランデーは、もともと、ぶどうを発酵、蒸留した酒だったが、現在では果実を主原料にする蒸留酒すべてについてこの名称が使われている。つまり、狭義のブランデーと、広義のブランデーとの2種類がある。
ブランデーの歴史
狭義のブランデー
ぶどう原料のブランデーが、フランス西南部のアルマニャック、コニャック地方で造られるようになった。その後、17世紀後半から商業化の時代に入る。また、ブランデーの一種として、ぶどう以外を原料にしたブランデーも、フランス各地で製造・販売されるようになったと考えられる。ブランデーという名称は、コニャック地方でぶどうをワインにし、さらにそれを蒸留したものを、“Vin Brule(ヴァン・ブリュレ:ワインを焼いたもの)”と呼び、それをこの地に取引にやってきたオランダ人貿易商たちが、オランダ語に直訳して“Brandewijn(ブランデウェイン)”と称して輸出した。主な輸出先はイギリスで、彼らはこの語を縮めて“Brandy(ブランデー)”と呼ぶようになった。ブランデーの当初の意味は、ワインの蒸留酒のことだった。このワイン蒸留酒の代表例が、フランスだとコニャック、アルマニャック、フレンチ・ブランデー、およびオー・ド・ヴィー・ド・ヴァンなどである。また、ドイツ、イタリア、スペイン、東ヨーロッパ、アメリカ、日本のブランデーも、このタイプのものが主流である。
広義のブランデー
ぶどうから果汁を搾った後、残りカスを発酵させて蒸留したものをカスとりブランデーという。フランスでは、オー・ド・ヴィー・ド・マール(マール)、イタリアでは、グラッパと呼んでいる。マールは、コニャックと同じように樽熟成を経て琥珀色になってから製品化するものがほとんどだ。逆にグラッパは、樽熟成されずに無色透明のまま製品化するのが一般的なスタイルである。スペインやポルトガル、南米諸国でアグアルディエンテ、バガセイラ、ビスコなどと呼ばれている焼酎に近い感じの蒸留酒だが、その中にはカスとりブランデーの一族が含まれる。ぶどう以外の果実を原料にして造られるブランデーでは、りんごを原料としたカルヴァドスが有名である。フランス西北部のノルマンディ地方の特産酒で、蒸留後、樽熟成させて琥珀色になったところで製品化している。
ブランデー王国フランス
フランスは質、量ともに世界一の生産国で、その中でもコニャックとアルマニャックがブランデーの双頭をなしている。生産地域、原料ぶどう品種、蒸留法などがワイン、オード・ヴィー原産地統制呼称法(AOC法)で厳しく制限されている。
コニャックの特徴
コニャックはフランス西南部シャラント川沿いの地域が産地。サンテミリオン(現地ではユニ・ブランという)種が原料ぶどうとして主に使われているの。サンテミリオン種で造られるワインは、酸が多く、アルコール度数の低くなる。ワインには短所であるが、ブランデーにした場合これは長所に変わる。何故かというと、ワインに含まれる酸は、ブランデーへの熟成期間中に芳香成分に変化する。また、アルコール度数が低いため、大量のワインから少量のブランデーしか蒸留できないが、ぶどう由来の香味が濃縮され、ブランデーに溶け込む。結果として、芳醇なコニャックが生まれる。また、原料となるぶどうが「どの地区から収穫されたか」という点も、コニャック・ブランデーの味わいに影響する。AOC法はコニャック地方を土壌の特性で6地区に区分している。そのうち1地区以外は、100%その地区産のコニャックでないと地区名をつけて売ることが許されない。
グランド・シャンパーニュ
デリケートな香り、豊かなボディのブランデーを生むが、熟成に年月がかかる
プティット・シャンパーニュ
グランド・シャンパーニュに似るが個性はやや穏和である。熟成も比較的早い。
ボルドリ
コシが強く、熟成も比較的早めである。
ファン・ボワ
若々しい感じの軽快な酒を生み、熟成は短期間で十分である。
ボン・ソワ
酒の風味は薄手で、高級品には使わない
ボワ・ゾルディネール
上品さを欠き、並酒のベースになる。地区名は名のれない
フィーヌ・シャンパーニュとは、グランド・シャンパーニュ産とプティット・シャンパーニュ産だけをブレンドしたもので、さらにグランド・シャンパーニュ産の使用比率が50%以上のものをいう。
コニャックのグレード表記
コニャックは、☆☆☆、VSOPなどの符号をつけることが多い。この符号は、熟成年数の古い原酒と若い原酒をブレンドして製品化するコニャックの若い原酒の熟成年数(コント)により表記が変わる。この符号表記について、全国コニャック同業者事務局(BNIC)は1953年、次のように規定している。
- コニャックの原酒は、ぶどう収穫の翌年の3月末日までに蒸留を終わらなければならない。
- 翌4月1日から、樽の原酒をコント0と数え、翌年の3月末日まで続く。
- 4月1日からは、コント1となり、以降1年ごとに数が繰り上がる。
- コント2以上にならないと、コニャックとして売ることができない。
- ☆☆☆はコント2以上を使用したものである。
- VSOPはコント4以上を使用したものである。
- XO、EXTRA、NAPOLEONはコント6以上を使用したものに表示を許している。
コニャックの代表銘柄
アルマニャックの特徴
アルマニャックは、南仏ピレネー山脈に近い地域が産地である。原料は、コニャック同様にサンテミリオン種が主力となっているが、風土、蒸留法、熟成法がやや異なるため、出来上がるブランデーも変わってくる。エレガントな風味にまとまることが多いコニャックに比べて、あんずに近い香りを持つものが多く、フレッシュな味わいが感じられる。
アルマニャックのグレード表記
アルマニャックのNAPOLEON、XOなどの符号については、全国アルマニャック同業者事務局(BNIA)により、コニャックに準じた基準が設けられている。アルマニャックの代表的銘柄
コニャック・アルマニャック以外のブランデー
フレンチ・ブランデー
フレンチ・ブランデーとは、コニャック・アルマニャックの条件に合致しないブランデーの総称である。主として連続式蒸留機を使っており、軽い風味に造られ、短期熟成で製品化される。日本に輸入されるフレンチ・ブランデーは、それにコニャック、アルマニャックを少しブレンドして、味のバランスを取ったものが多い。なお、ラベル表示に関する規制がないため、コニャックやアルマニャックと違い、NAPOLEONと表記されていても、さほど古酒ではない。
オー・ド・ヴィー・ド・ヴァン
フランスの有名AOCワイン産地で造られるブランデーを、正式にはオー・ド・ヴィー・ド・ヴァンといい、通称“フィーヌ”という。AOC基準に達していないワインや、樽やタンクの底にオリとともに残ったワインを蒸留したものである。生産地は、1941年施行のアペラシオン・ドリジーヌ・レグルマンテ法(産地規制法)により、ワイン特産地14か所が指定されている
かすとりブランデー
マール
フランスのワイン産地では、ワイン用ぶどう搾りカスからブランデーを生産している。搾りカスをマールといい、蒸留した酒はオー・ド・ヴィー・ド・マールと称するが、単にマールと呼ぶことも多い。産地規制法で、14地方が地名表示による生産を許されている。なかでは、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、アルザス地方(ゲヴュルツトラミネール種が原料のもの)の製品に佳酒がある。
グラッパ
EUは、イタリアのグラッパを、マール同様、ぶどうの搾りカスから造るブランデーとして認定し、蒸留時のアルコール度数を86%以下と規制している。グラッパの語源は、中世ラテン語でカスを意味するラプスrapusから来ているという説が有力である。蒸留は、単式、連続式のどちらも使われているが、単式で湯煎方式のものに品質の良い酒がある。近年では、白ぶどうを搾汁後ただちに発酵・蒸留したり、黒ぶどうは発酵後の搾汁をソフトにし、発酵液を多く残したカスから蒸留するため、品質が飛躍的に向上。レストランやバーへの進出も目覚ましい。
カルヴァドス
フランス北西部は、りんごを原料にしたブランデーの特産地である。1553年の古文書に蒸留の記録が残っており、歴史は古い。その中心生産地の酒は、19世紀初頭から、地名をとってカルヴァドスと呼ばれるようになった。だが、そのカルヴァドスという酒の存在がパリはじめ全仏に知られるようになったのは、第一次大戦後のことで、そう古い話ではない。現在、カルヴァドスには、3つのAOCが適用されている。その3つは、カルヴァドス・デュ・ペイ・ドージュ、カルヴァドス・ドンフロンテ、そして単なるカルヴァドス。このうち優秀酒を生むのが、最初のペイ・ドージュAC。アルカリ性土壌の限定地区内で収穫されたりんごを、コニャック式に単式で2回蒸留する。ドンフロンテACは同名地区産原料を、半連続式で蒸留するが、りんごワイン(シードル)に30%以上の梨ワイン(ポワレ)を混合、蒸留するのが条件。カルヴァドスACは、右の2地区周辺で産するもの、またはそれらをブレンドしたもの。これらは、コント3(約4年熟成)でヴィユー・レゼルブ、コント4でVO、ヴィエイユ・レゼルブ、コント5でVSOP、コント6でナポレオン、エクストラなどの表示が認められる。なお、こうしたカルヴァドス生産地域外辺のノルマンディー、ブルターニュ、メーヌの各地方でも、りんごのブランデーは造られているが、それらはオー・ド・ヴィー・ド・シードルの名で売られている。蒸留には連続式蒸留機を用い、熟成の必要はない。