水戸黄門とお酒
茨城といえば、テレビでお馴染みの勧善懲悪の水戸黄門こと徳川光圀が有名です。
平均寿命の短かった江戸時代、長命の光圀は、牛乳酒をたしなんでいたようです。
光圀は水戸の下町の給水難を解消するために、笠原水道と呼ばれる総延長約10kmにも及ぶ上水道を造りました。
日本国内では18番目に古い上水道で、寛文2年(1662年)に工事が始まり、翌年に完成しました。
笠原水道の源水は、灘の水にまさる清らかさで、酒造りには秀逸と言えます。
吉久保酒造の創業者・粟野屋吉久保清三郎は常陸の米と笠原の水を使った酒造りを始めました。
水戸市は、那珂川流域にあり、酒造用の水が豊富です。
現在、水戸市には吉久保酒造のほか、明利酒類と瀧田酒造店の酒蔵があります。
明利酒類が開発した「小川酵母」は日本醸造協会10号酵母として幅広く使用されています。清酒「副将軍」は小川酵母の特性を生かした淡麗芳醇なお酒で、近年全国新酒鑑評会において金賞を連続受賞しています。
茨城県の酒蔵
茨城県には関東で最も多い46の酒蔵があります。これらの酒蔵は、久慈川、那珂川、筑波山、鬼怒川、利根川の各水系の水を使ってお酒を造ります。
久慈川と酒蔵
久慈川は茨城県の一番北にある水系で、福島県との県境にある八溝山の北側斜面に源を発します。日本で有数の鮎の釣場として有名で、さらに常陸風土記に「久慈の味酒」と記される酒造りの適地です。久慈川流域には、(株)家久長本店、根本酒造(株)、酔富銘醸(株)、太田銘醸(株)、(資)剛烈富永酒造店、檜山酒造(株)、岡部(合名)があります。
那珂川と酒蔵
那須岳山麓を源とする那珂川は、関東随一の清流として知られ、関東第3の大河です。
流域には自然が多く残され、魚類が豊富で、江戸時代にはサケが遡上する河川でした。
水系には汽水湖である涸沼や千波湖などの天然湖が存在し、古来より水田の多い穀倉地帯です。
那珂市にある木内酒造は、文政6年(1823年)の創業で、枯れを知らない神賜の井戸水が仕込みに使われています。
那珂川は水戸市を流れて酒造に仕込み水を供給し、大洗海岸で太平洋に流れ込みます。
大洗海岸にある慶応元年創業の老舗・(株)月の井酒造店も、那珂川の清冽な伏流水を使っています。
筑波山と酒蔵
筑波山は玄武岩と花崗岩の2重構造になっているので周辺には多くの湧き水があります。その中には筑波六井などのように銘水と呼ばれるものもあります。筑波山の周辺には石岡市、笠間市、桜川市、筑西市、つくば市など合わせて14もの酒蔵が在ります。
石岡市には,藤田酒造店、白菊酒造、府中誉、石岡酒造、笠間市には須藤本家、笹目宗兵衛商店、武藤酒類醸造、磯蔵酒造があります。また、桜川市には堀川酒造店、村井醸造、西岡本店、筑西市には来福酒造、つくば市には稲葉酒造場、浦里酒造店があります。
石岡市は筑波山系 の地下水や筑波山麓の良質米が大量にえられる事などから、古来より 関東有数の銘醸地として知られ、老舗の酒蔵があります。
藤田酒造店は室町時代の寛正3年(1462年)に京都より来て酒蔵を構え、約550年の酒造りの伝統があります。
府中誉は明治・大正期の酒米「渡船」で仕込んだ吟醸酒「渡船」を造っています。。
「稲田神社」のある笠間市は古くから稲作が盛んでした。稲田地区は古くから「稲の郷(里)」と呼ばれ、良質の地下水に恵まれ、酒造りには絶好の地域です。
笠間稲荷神社の御神酒を造っているのは笹目宗兵衛商店です。
桜川市の西岡本店は、江戸時代に近江商人が創業した酒蔵です。
筑西市の来福酒造は、江戸時代に近江商人が創業した酒蔵です。
つくば市の浦里酒造店は、流行に左右されず、一貫して小川酵母が醸し出す、すっきりと軽快な味わいの日本酒を大切に造っています。
鬼怒川と酒造
鬼怒川は、関東平野を北から南へと流れる一級河川で、利根川に合流します。
鬼怒川水系の豊富で上質な水は日光国立公園内にある鬼怒沼(奥鬼怒)に源を発します。
結城市には、江戸時代に創業した結城酒造(株)と(株)武勇があり、常総市には、野村醸造(株)、(株)山中酒造店があります。ここは千年の歴史ある結城つむぎの産地で、酒銘には「一人娘」や「紬美人」などがあります。
利根川と酒造
利根川は、三国山脈の一つ、大水上山を水源として関東地方を北から東へ流れ、太平洋に注ぐ一級河川です。
「坂東太郎」の異名を持ち、流域面積は約1万6,840km2で日本第1位であり、日本屈指の大河川といえます。
茨城県西部、渡良瀬川と利根川の交わる古河には、天保2年(1831年)に創業した青木酒造があります。古河で唯一の酒蔵で、地酒として広く愛飲されています。
利根川を下ると、水利を生かして室町時代から交通の要所として栄えた猿島郡境町に至ります。ここには安政2年(1855年)創業の萩原酒造(株)があります。酒銘「徳正宗」は、中国の詩に由来します。
さらに利根川を下ると、金門酒造と田中酒造店のある取手市に至ります。
天保5年に創業した金門酒造は代々金左衛門と名乗り、酒銘「金門」もそれに由来します。
田中酒造店の酒銘「君萬代」は、明治天皇の行幸時に、お気に召した献上酒に賜ったそうです。
取手市の隣、龍ケ崎市には岡田酒造店があります。
明治17年創業で昔ながらの普通酒が中心の酒蔵です。
利根川を更に下ると、水郷の潮来市にいたります。
文化2年に創業の遠峰酒造と愛友酒造があります。
愛友酒造は鹿島神宮のお神酒「霰降」と「鹿島神宮献上酒 神の池」を造っています。
霞ヶ浦に面する行方市には竹乃葉酒造があります。
享保元年の創業で、酒名にもなっている竹乃葉は、謡曲「猩々」から命名されました。
茨城県の酒造好適米
酒造組合から茨城県産米を原料とする独自ブランドの日本酒を造たいという要望がありました。一方、県内で栽培されている「美山錦」などの酒造好適米は、熟期や耐倒伏性など栽培特性および品質に難点がありました。
茨城県独自の酒造好適米「ひたち錦」は、大粒で心白の発現が良い「岐系89号」を母、倒伏に強く病害にも強い「月の光」を父として人工交配を行い、育成されました。
「ひたち錦」は出穂期および成熟期が関東地方の晩生の早にあたり、長稈ながら、稈が太く強稈のため耐倒伏性に優れています。
玄米は大粒で、雑味を生じさせる蛋白質含量が低く、心白粒の発現率が高く、心白の大きさは小から中の粒が多く、酒米としての特性に優れています。
「ひたち錦」を原材料とする日本酒は、透明感の高いすっきりとした味に仕上がります。
茨城県の酵母
明利酒類は協会10号酵母として知られる「小川酵母」と大吟醸用の「M-310酵母」を造り出しました。
小川酵母は優れた香気を造りだし、酸が少なく低温でよく発酵するため、吟醸酒や本醸造酒などに向いている酵母として高く評価され、全国的に使われています。
明利酒類の清酒「副将軍」は小川酵母の特性が生かされた淡麗芳醇なお酒で、近年の全国新酒鑑評会で金賞を連続受賞しました。
明利酒類技術部は小川酵母の遺伝子を変異させることによって1992年に大吟醸用の「M-310酵母」を開発しました。
香気成分であるカプロン酸エチルを親株の2~3倍も生成する酵母で、その優秀性が酒造業界から注目されています。
筑波大学の花酵母
2009年に筑波大学の生命環境科学研究科内山研究室は、桐の花から約1,500株の酵母を単離しました。この中からアルコール耐性、糖資化性、発泡性などの選択基準を使って、酒造りに適した野生酵母を採取しました。
そして、来福酒造と連携し大学ブランドの「桐の華」という名前の純米吟醸酒を製造しました。
「五三の桐(桐の葉)」は筑波大学の校章です。